コラム - 環境認証の必要性と今後の動向(1)

~ 伊藤雅人氏(三井住友信託銀行 不動産コンサルティング部)へインタビュー ~

[全2回]
(1)環境認証の必要性
(2)今後の動向

(1) 環境認証の必要性

不動産の環境性能の課題に役立つツールの開発

 伊藤雅人氏(以下「伊藤」) 
CASBEEというのはもともと建築技術者が環境配慮設計のコミュニケーションツールとして活用してきたものですが、不動産マーケットにとっては、なかなか自分自身で評価できないことはもちろんその評価結果を見ることも難しいシステムというところがありました。しかし不動産マーケットに環境配慮建物を普及させていく当事者というのはビルオーナーや管理会社、仲介会社など不動産関係事業者なので、その不動産関係事業者にとって分かりやすいシステムを作っていかなければならないだろうということで、私自身がCASBEE不動産評価検討小委員会の中で提言し作り上げられたシステムがCASBEE不動産です。

私は共同幹事の1人としてCASBEE不動産の開発に関わってきました。
もともとCASBEEの委員会というのはやはり技術者や建築関係の専門家などが中心なのですが、開発を進めていくなかで、日本ビルヂング協会連合会や不動産協会など不動産関係の方々にもたくさん加わっていただき、最初やった内容について実態にそぐわないだとか、評価面で公正ではないといったところを徹底的に意見を頂いて解決してきました。2012年にツール化、2013年度から認証制度を始めて当初の38物件は先行認証ということで、いわゆる認証上位機関である建築環境・省エネルギー機構が認証しました。当初の開発当事者を含む委員会のメンバーで審査をして判断し、認証機関に移行したのが2014年度ぐらいからでした。

私自身はそういった開発や当初の先行認証などに関わる一方で、認証機関による認証に移行してからはコンサルタントとしてCASBEE不動産評価の申請に向けた支援をやる立場になり、お客さんと接し始めました。
今までお受けした案件の中で、一番ニーズが高いのは不動産投資法人です。なぜニーズが高いかというと、背景にあるのは欧州を中心とした不動産投資家がグレスビー:GRESB(グローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク)という指標を作って、その指標をもとに自分たちの投資先である不動産会社なり不動産ファンドのサステナビリティを評価して投資判断に用いるということをやり始めたためです。GRESBの評価項目の中でもCASBEEを含めた環境性能評価システムは評価の対象になるので、その活用ということをやってきました。

CASBEE不動産自体も新しいシステムなので、初めはGRESBの評価項目の中でもいわゆるドロップダウンメニューといわれるデフォルトのリストの中には入ってなかったのですが、最近になってそこにも入ってくるようになりだいぶ知られてきたということと、当初からCASBEE不動産の狙いとしていた評価のしやすさ、分かりやすさ、逆にいうと認証にかかるコストや時間が大幅に軽減されるというメリットも含めて不動産投資法人なり不動産ファンドのニーズに合致して急拡大しているということです。もう1つ、これは兆候として現れているぐらいの段階ではありますが、そういったプロの不動産ファンドや不動産会社ではない一般事業法人の環境性能認証の取得というのをもっとプロモーションしていければと思っています。その一環として上場企業がコーポレートガバナンスコードとか環境社会のリスクへの対応ということについて行動し示していかなければいけないというなかで、取り組みの1つとして行われた認証取得のお手伝いをさせていただきました。当社関係以外でも事業法人の認証は少しずつ増えていると思いますし、当社もどんどんそこはお勧めしていきたいと思っているところです。

 インタビュアー 
それぞれの申請者はCASBEE不動産に対してどう考えているのでしょうか。

 伊藤 
不動産投資法人にとっては環境性能認証を取得する際のコストや時間などの感覚が合っているということ。また、項目を絞ったことにより個々の環境性能の特徴がとても分かりやすく把握できるので、単にRateを取得するということだけではなくて「自分たちの不動産の環境性能の課題発見に役立つ」ということはよく言われます。そこはまさに開発の狙いとしたところでした。そのほか、事業会社にとっても取り組みのアピールと併せて課題発見ツールとして活用されているようです。

 インタビュアー 
事業者からしてもそれほど負担を掛けずに認証取得するという点が結構大きいのでしょうか。

 伊藤 
確かにCASBEE不動産も、中小ビルオーナーの要望に応える形で1機関でのサポートと認証の一気通貫というのは認めています。部署ごとにそれぞれの評価員がやるということを前提にして。きちんと認証機関に認証してもらうようなシステムの中でも、できる限り分かりやすく取り組みやすいものとして開発してきました。

環境認証の有効期間

 インタビュアー 
CASBEE不動産の分かりやすさ、スピード感に関してわれわれはまさに実感している部分でもあります。いろいろな環境認証が世の中にありますが、築1年を超えた物件で、また用途も今のところは3用途ということになってはいるけれども、該当するお客さまはGRESBということもあって、それをメインにやっていきたいという話はよく伺います。ですから今後どんどんCASBEE不動産が広まっていくことは間違いないと思います。実際にCASBEE不動産評価認証を取得されて有効期間の5年間経った後、お客様はどうするとおっしゃっていますか。

 伊藤 
もともとCASBEEの制度自体が有効期間を過ぎた場合には認証物件を名乗ってはいけないとされています。ただ一方で、「いついつ付け認証」などという形で、その認証があったことを表示することは認められています。
ですから、ご自身の取り組みのアピールとして実際そういう表示をされているところもあります。ただGRESBについては認証済みでなければいけないので、皆さんこれから5年ごとにやってこられるようです。

 インタビュアー 
CASBEE不動産の認証を取得して良かった、サステナビリティの取り組みの課題が見えてきた、あるいは建物の運用コストがすごく下がったというような、何か目に見える効果があったというような声はありますか。

 伊藤 
課題が見えたということに対しては、投資法人だとその課題に対する改善が実行されるので、それはそれで非常にいいと。
その結果を見て、5年後にはもっといい評価を得られるように、あるいは自分たちはこうすればもっとランニングコストダウンにつながるかもしれない、もっとアピールできる、ということで、本当に実行されています。
また現在CASBEE不動産はSランクとAランクしか認証されていませんが、実はその下にもう2ランクあります。ランクにこだわるところがあって、俎上に載らない件も結構あるんですよ。CASBEE不動産というのは必須条件を満たせばBランクは取れるので、それでもう環境配慮建築物なんですよということは私自身申し上げておりますが、実際一覧にS、A、S、A...と並んでしまうと、それ以上じゃないと先に進めませんと言われてしまうことはあります。

 インタビュアー 
私も結果を見ていて、ビューローベリタスのほうでもSとAしかないものですから、これはどういう傾向なのかといろいろ調べましたが結局何の要因もないわけです。今、話をお伺いしてやっと合点がいきました。要は必須項目をクリアするということが環境配慮につながっているということになるのですね。

 伊藤 
だからBでもいいんですよとわれわれサポーターとしては言うのですが、そうは言いながらも「他がSとAばかりでわれわれだけB+で出すわけにはいかないよ」と。

 インタビュアー 
サステナビリティレポートやコーポレートガバナンスのなかで、企業者としてはやはり高水準で示したいということですね。

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 伊藤 
そうですね。だから、そういうところにアピールするのに別にB+でもAでもいいじゃないですかと言っているんですが、中にはSでなければ駄目というところもあります。

 インタビュアー 
なるほど。GRESBのスコアの影響は?

 伊藤 
今はないと聞いています。

 インタビュアー 
では企業としては、どちらかというとGRESBを出すということに関してはBでも別に構わないということですか。

 伊藤 
そうです。認証ですから。

SDGsへの関心の高まりとCASBEEの位置づけ

 インタビュアー 
今まで環境認証に取り組んだことがないというお客さまがいらっしゃるかと思いますが、そういうお客さまに対して、環境認証の必要性というか、CASBEE不動産の必要性、メリットなど、どのようにお伝えされていますか。

 伊藤 
ファンドやREIT(リート)もGRESB対応ということで非常に分かりやすいのですけれども、ただ一般事業法人からすると「何がメリットになるのですか」と。そういった環境性能のアピールということと、課題発見ということは申し上げています。
「それはそれで何となく分かるけれども、本当に自分たちにとってためになることなのか」というところはよく言われるところです。最近、ESGに加えてSDGsに対する関心が企業の間で高まっていて、特に企業のCSRレポートや統合報告書の中で、SDGsによる17の目標の中でわれわれは特にこことここに取り組んでいますというようなアピールをされる会社が多いです。そこがまさにSDGsのほうでも推奨している開示の仕方なので、CASBEEの取り組みはどれに当たる、この目標についてはこの取り組みが合致するというように伝えると納得されます。直接経済的、財務的効果というよりは、非財務的効果のところで少し響いています。

 インタビュアー 
なるほど。私も営業に回っていると環境認証の話をするのですが、「じゃあ取ってどうするの。取って何かメリットあるの?」と聞かれると、なかなか回答が難しいので、今のお話は非常に参考になります。

「環境認証の必要性と今後の動向(2)」へ続きます(2018年7月中旬公開予定)

三井住友信託銀行 不動産コンサルティング部 伊藤雅人氏

伊藤雅人氏 プロフィール

■経歴
1983年 早稲田大学法学部卒業、住友信託銀行入社
2005年東京都不動産鑑定士協会十周年記念論文『不動産に関する「環境付加価値」の検討』 にて、最優秀賞を受賞
現在、三井住友信託銀行 不動産コンサルティング部環境不動産担当部長

■委員会等
国土交通省サステナブル建築物等先導事業評価委員
国土交通省環境不動産普及促進検討委員会委員
CASBEE不動産評価検討小委員会幹事
CASBEE不動産評価員養成委員会委員
国連環境計画金融イニシアティブ不動産ワーキンググループ(UNEPFI PWG)メンバー
スマートウェルネスオフィス研究委員会 経済価値調査WG主査 ほか

■著書
共著/グリーンビルディング事例集 2008年秋(ビーエムジェー)
共著・総合編集/環境を考えた不動産は価値が上がる(住宅新報社)
共著・総合編集/マルチステークホルダーの動きから読む サステナブル不動産 (ぎょうせい)
共著/進化する金融機関の環境リスク戦略(金融財政事情研究会)
その他、新聞、専門雑誌への投稿等多数

■資格
不動産鑑定士、再開発プランナー、不動産証券化協会認定マスター ほか