工場の避難施設等に関する遵法性調査事例

遵法性調査とは、既存建物を建築基準法などの法令やお客様の指定した法令に照らし合わせて適合性を調査する業務です。

企業に求められるコンプライアンスの内容は、建設時や既存建物売買・状況確認時、また労働安全への取り組み時において高度かつ多岐にわたっています。これら全内容を企業が独自に実践するのは容易ではありません。ビューローベリタスは第三者の立場からコンプライアンスに関する基準と実際の運用状況とのギャップを調査し、企業の経営リスクの低減に寄与しています。

今回は、工場等の遵法性調査においてよくある指摘事項のうち、避難施設、消火設備等に関連するものを解説します。

たとえば、以下のような工場の場合で、面積区画・排煙設備・非常用の照明装置・直通階段に至る歩行距離・自動火災報知設備・誘導灯に関し、どのような規定が適用されるかを見てみましょう。

→ 遵法性調査

調査対象建物の概要

  • 地上2階建、S造
  • 用途:食品加工工場(1階:工場、2階:工場・事務所)
  • 延べ床面積:合計6,600㎡(1階3,300㎡、2階3,300㎡)
  • 主要構造部:ロ準耐(準耐火建築物)
  • 採光上有効な窓有り
  • 各室の壁および天井の仕上げは準不燃材料
  • スプリンクラー設備の設置なし
  • 消防法上の無窓階に該当
2階平面図

1.面積区画

建築物の主要構造部の耐火仕様、延べ面積によって、面積区画を要する建築物が規定されています。
事例の建築物は、法第2条第九号の三ロに該当する建築物で、延べ面積が1,500㎡を超えるため、床面積の合計1,500㎡以内ごとに1時間準耐火基準に適合する準耐火構造の床もしくは壁、または特定防火設備で区画を要します。工場の部分でその用途上やむを得ない場合は、防火区画が免除されます。事例の建築物は、確認申請図書に防火区画免除願いが添付されており、1,500㎡以内ごとの防火区画が免除されています。

[関連法令]

法第35条、令第112条、令第123条

2.排煙設備

建築物の用途、延べ面積、階数、排煙上有効な窓の有無等によって、排煙設備の設置を要する建築物が規定されています。
事例の建築物は、令第116条の2第1号第二号に該当する窓その他の開口部を有しない居室、および、延べ面積が1,000㎡を超える建築物の居室でその床面積が200㎡を超えるものについては排煙設備の設置を要します。また、排煙設備を要する部分の床面積が500㎡を超える場合は500㎡以内ごとに防煙壁で区画することを要します。
防煙壁:間仕切壁、天井面から50㎝以上下方に突出した垂れ壁等で、不燃材料で造り、または覆われたもの

[関連法令]

法第35条、令第126条の2、令第126条の3

3.非常用の照明装置

建築物の用途、延べ面積、階数、採光上有効な窓の有無等によって、非常用の照明装置の設置を要する建築物が規定されています。
事例の建築物は、延べ面積が1,000㎡を超える建築物に該当するため、非常用の照明装置の設置を要します。

[関連法令]

法第35条、令第126条の4、令第126条の5

4.直通階段に至る歩行距離

建築物の避難階以外においては、避難階または地上に通ずる直通階段を居室の各部分からその一に至る歩行距離が建築物の用途、採光上有効な窓の有無等によって規定されています。
事例の建築物は、令第120条の表(3)に該当し、主要構造部が不燃材料で造られており、居室、居室から地上に通ずる主たる廊下・階段その他の通路の壁および天井の室内に面する部分の仕上げが準不燃材料であるため、居室から階段に至る歩行距離は60m以内とすることを要します。

[関連法令]

法第35条、令第120条

5.自動火災報知設備

建築物の用途、その用途の設置階、延べ面積等によって、自動火災報知設備の設置を要する建築物が規定されています。
事例の建築物は、工場用途で延べ面積が500㎡を超えるため自動火災報知設備の設置を要します。

[関連法令]

法第35条、消防令第7条第3項第一号、消防令第21条、別表第一(12)

6.誘導灯

建築物の用途、その用途の設置階、延べ面積、消防法上の無窓階であるか等によって、誘導灯の設置を要する建築物が規定されています。
事例の建築物は、1階・2階共に消防法上の無窓階に該当するため、避難口誘導灯・通路誘導灯の設置を要します。

[関連法令]

法第35条、消防令第7条第4項第二号、消防令第26条、別表第一(12)

現地調査においてよくある指摘事項

次に、事例の建築物の遵法性調査を行なった場合に、面積区画・排煙設備・非常用の照明装置・直通階段に至る歩行距離・自動火災報知設備・誘導灯に関し、どのような指摘事項が多く見受けられるかを解説します。

1.面積区画

  • 煙感知器連動閉鎖式の防火シャッター、煙感知器連動閉鎖式の特定防火設備の閉鎖位置に物品等が残置されておりシャッターや扉が閉鎖できない
  • 常時閉鎖式の特定防火設備にドアストッパーを設置し常時開放状態で使用している
  • 新築時に、製造ライン設置のため防火区画免除願によって1,500㎡区画を免除していたが、現状は製造ラインを変更し新たに間仕切壁で区画した部屋を設けている。当該部分は製造ラインとは関連しないので防火区画が必要だが、防火区画がされていない

2.排煙設備

  • 模様替えにより排煙設備のない部屋がある
    (告示の規定を満たせば排煙設備の設置を免除できる場合があります)
  • 模様替えや什器の設置等により自然排煙の排煙窓が塞がれている
  • 自然排煙窓をあけるための手動開放装置が什器の設置等により操作できない
  • 模様替えにより防煙壁が撤去され、500㎡区画ができていない

3.非常用の照明装置

  • 模様替えにより非常用の照明装置のない居室、居室から階段・屋外への出口に至る通路がある
    (告示の規定を満たせば非常用の照明装置の設置を免除できる場合があります)

4.直通階段に至る歩行距離

  • 居室から階段に至る歩行距離について、新築時は製造ラインや什器を考慮せずに歩行距離が算定されていたため、製造ラインの設置や模様替えのために間仕切壁が設けられたことにより、歩行距離が規定値を超えている

5.自動火災報知設備

  • 模様替えにより感知器のない居室、室、通路がある

6.誘導灯

  • 製造ラインや什器の設置、物品の残置により誘導灯が見通せない
  • 模様替えにより、誘導灯のない居室、通路がある
  • 誘導灯の球切れにより点灯してない
  • 誘導灯の表示板が破損している、表示板の劣化により表示が見えない

多くの建物は、竣工当時は適法な状態であったとしても、長い年月を経ていくなかで、模様替えや間仕切変更、増改築等が行われたり、所有者が変わり用途変更が行われたりします。

その過程で、本来必要であった確認申請手続きがされていなかったり、法に適合した形での増改築等が行われていなかったりする場合があります。また、建築物の所有者等の使用状況によって法に適合しない状態になっていることもあります。
建築基準法第8条により、建築物の所有者、管理者または占有者は、その建築物の敷地、構造および建築設備を常時適法な状態に維持するよう努めることを求められています。

ビューローベリタスのサービス

上記でご紹介した事例やその他関連する事例について、ビューローベリタスでは「遵法性調査サービス」を提供しています。
具体的には、建築基準法・消防法を基準として建物の現状を精査し、問題点や改善すべき点について調査内容を報告します。現状の建物の法適合性を確認されたい場合は、遵法性調査の依頼をご検討ください。

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