WELL認証 取り組みやすい項目

建築物の空間づくりにおいて、室内で過ごす人たちの健康面や快適性に目を向けたグローバルな評価システムが「WELL認証」です。従業員の満足度向上や、オフィスビル・施設の不動産価値向上などにつながることから、日本でも取得件数が増加しています。

本記事では、WELL認証の概要と認証を取得するためのポイントシステムについて解説します。さらに、認証取得において取り組みやすい項目も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

WELL認証とは?

WELL認証(WELL Building Standard)とは、2014年にアメリカで開発された、建築物の空間づくりに関する評価システムです。WELL認証には、室内で過ごす人々に健康や快適性を建物、組織レベルで科学的に評価する「The WELL Building Standard(現在はVer2)」と、健康、安全、パフォーマンスなどの特定のテーマに対応するWELL戦略に焦点をあてた「WELL Rating」の2種類があります。
ここでは、「The WELL Building Standard v2」の評価システムについて詳しく解説していきます。

WELL認証は、世界各国で登録・認証が進んでおり、2024年2月26日時点での「WELL v2」の認証件数は累計1,329件。中国、アメリカ、フランスなど48ヵ国に広まっています。日本では、2024年2月までに150件のプロジェクトが登録され、うち49件が認証を取得しており、今後も増加する見通しです。WELL認証を取得するメリットとしては、次のようなものが挙げられます。

  • 従業員の健康増進
  • 労働環境の改善による、生産性向上
  • 働きやすさから企業イメージ向上につながる
  • 働きやすいビルとして、不動産価値向上につながる

参考リンク:WELLとは|Green Building Japan

WELL認証の10項目

WELL認証(The WELL Building Standard)の評価システムは、室内で過ごす人々の健康・快適性につながる要素として、以下の10のコンセプトから構成されます。

WELL認証の10のコンセプト

上記の10のコンセプトに「イノベーション」を加えて評価され、基準以上のポイントを取得することで認証を受けられる仕組みです。

WELL認証のポイントシステムとは

WELL認証(WELL v2)の評価システムでは、前述した10のコンセプトに対して、それぞれ「必須項目(Precondition)」と「加点項目(Optimization)」が定められています。必須項目は必ず満たす必要があり、加点項目は当てはまるものにポイントが加点されます。取得した合計ポイントによって、Bronze・Silver・Gold・Platinumの4つの認証レベルに分けられます。WELL認証自体はグローバルな評価・認証システムですが、国のルールや風土などによって、達成しやすい項目・しにくい項目があります。

WELL認証で取り組みやすい項目

前述のとおり、WELL認証には国ごとに達成しやすい項目があります。
ここでは、日本で比較的取り組みやすく費用対効果の高い項目を、コンセプトごとに紹介しましょう。

空気

必須項目

  • 空気質
  • 禁煙環境
  • 換気の設計
  • 建設段階の汚染管理

加点項目

  • 空気質の向上
  • 換気の設計の強化
  • 開閉可能な窓
  • 空気質のモニタリングと啓発
  • 汚染侵入管理
  • 燃焼の最小化
  • 発生源分離
  • 空気ろ過
  • 給気の強化
  • 微生物やカビの抑制

取り組みやすい加点項目は、「汚染侵入管理」と「空気ろ過」です。「汚染侵入管理」は、建物の外壁、入口を通じて屋外から屋内への空気汚染物質の侵入を減らすプロジェクトです。具体的には玄関にマット、取り外し可能なカーペットタイルを設置することで加点できます。「空気ろ過」は、空調システムのフィルターを高性能なものに交換することと、毎年IWBIへ報告することで加点されます。

※IWBIとは、International WELL Building Institute(国際ウェルビルディング協会)の略称です。

必須項目

  • 水質
  • 飲料水の水質
  • 基本的な水質管理

加点項目

  • 水質の向上
  • 飲料水の水質管理
  • 飲料水の摂取の促進
  • 湿気の管理
  • 衛生に対するサポート
  • 敷地内の非飲用水再利用

取り組みやすい加点項目は、「飲料水の水質管理」と「衛生に対するサポート」です。日本は水道水の水質基準が高く、「飲料水の水質管理」は取り組みやすい項目です。また、トイレの衛生環境も良好で、水栓や入口の形状に非接触型が増えていることから、「衛生に対するサポート」も取り組みやすいでしょう。

必須項目

  • 光暴露
  • ビジュアル照明デザイン

加点項目

  • サーカディアン照明デザイン
  • 人工照明のグレア制御
  • 昼光の設計戦略
  • 昼光のシミュレーション
  • 視覚的バランス
  • 人工照明の質
  • 入居者による照明制御
  • 演色性の向上
  • ちらつきの管理

取り組みやすい加点項目は、「サーカディアン照明デザイン」と「人工照明のグレア制御」です。サーカディアン照明とは、人間の生体リズムに合わせて、明るさのレベル、光の照射時間、照射タイミングを調整することです。また、グレアとは、不快感や視界の妨げをもたらすまぶしさのことをいいます。

日本では、労働安全衛生規則第604条において、労働者を就業させる場所の「照度」の基準が定められています。そのため、必然的に必須項目を達成できるだけでなく、これらの加点項目についても容易に満たせるでしょう。

運動

必須項目

  • アクティブな運動とコミュニティ
  • 人間工学に配慮したワークステーションのデザイン

加点項目

  • 移動空間のネットワーク
  • アクティブ通勤のための施設
  • 敷地の計画と選択
  • 運動の機会
  • アクティブな家具
  • 運動スペースと器具
  • 運動の促進
  • 自己モニタリング
  • 人間工学のプログラム

取り組みやすい加点項目は、「運動スペースと器具」と「運動の促進」です。上記の項目は、屋内アクティビティの実施や駐輪場の設置、運動のための補助金提供など、従業員へのサービスを行うことで加点される可能性があります。

温熱快適性

必須項目

  • 温熱性能

加点項目

  • 温熱快適性の検証
  • 温度ゾーニング
  • 個別の温度制御
  • 輻射による温熱快適性
  • 温熱快適性モニタリング
  • 湿度制御
  • さらなる開閉可能な窓
  • 屋外の温熱快適性

取り組みやすい加点項目は、「個別の温度制御」と「温熱快適性の検証」です。日本では夏のクールビズが浸透しているため、暑い時期に空調の使用を控えても、従業員が着衣によって温度調節しやすいという特徴があります。よって「個別の温度制御」は、取り組みやすいでしょう。また、「温熱快適性の検証」は、入居後に快適さのアンケートを実施することで加点されます。

こころ

必須項目

  • メンタルヘルスの促進
  • 自然と場

加点項目

  • メンタルヘルスサービス
  • メンタルヘルスに関する教育
  • ストレス管理
  • 回復の機会
  • 回復のためのサービス
  • 回復プログラム
  • さらなる自然へのアクセス
  • 喫煙の中止
  • 薬物使用に関するサービス

取り組みやすい加点項目は、「メンタルヘルスサービス」と「回復の機会」、「喫煙の中止」です。これらは福利厚生メニューや休暇の付与など、福利厚生の充実している会社であれば取り組みやすいでしょう。

コミュニティ

必須項目

  • 健康とウェルネスの促進
  • 統合的なデザイン
  • 緊急時のための準備
  • 入居者調査

加点項目

  • さらなる入居者調査
  • 保健サービスと給付
  • 健康とウェルネスのさらなる促進
  • 新生児の両親に対する支援
  • 新生児の母親に対する支援
  • 家族支援
  • 市民参加
  • 多様性と包摂
  • アクセシビリティとユニバーサルデザイン
  • 緊急時の対応機器
  • 緊急時のレジリエンス
  • アフォーダブルな住居
  • 責任ある労働力の実践
  • DV被害者の支援
  • 教育と支援の確立
  • 歴史的認知の提供

取り組みやすい加点項目は「健康とウェルネスのさらなる促進」です。従業員の医療へのサポートや健康増進に積極的に取り組むという内容であるため、すでに健康経営を実施している企業であれば、加点対象になるでしょう。

イノベーション

加点項目

  • WELLのイノベーション
  • WELL APの参加
  • WELL教育
  • ウェルネスへの入口
  • グリーンビルディング評価システム
  • 炭素排出開示と削減

イノベーションは加点項目のみで、取り組みやすい項目は「WELLのイノベーション」です。前例のない画期的な取り組みを評価する項目です。例えば「WELL認証を取得した建物の無料案内ツアー開催」などが挙げられ、WELLのカテゴリでプロジェクトの個性を評価します。

まとめ

グローバルな評価・認証システムであるWELL認証の取得は、従業員の健康増進や生産性向上、企業イメージ向上につながります。WELL認証(WELL v2)を構成する10のコンテンツごとに、取り組みやすい項目とそうでない項目があるため、ハードルの低いものから実践していきましょう。

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