セットバックと高さ制限の関係とは?後退緩和の仕組みと既存建築物の注意点を解説

道路の境界線から一定の距離を空けて建築物を建てる「セットバック」により、道路斜線による高さ制限の影響を緩和することが可能です。これを「後退緩和(セットバック緩和)」と呼びます。なぜセットバックによって制限が緩和されるのでしょうか。

ここでは、セットバックと高さ制限の関係、後退緩和の仕組みについて解説します。合わせて、接道義務を満たしていない既存不適格建築物をセットバックせずに放置するリスクについても紹介します。

セットバック(道路後退)とは

セットバックとは、建築基準法や防災対策に基づき、道路の境界線から一定の距離を後退させた位置に建築物を建てることです。使える土地面積を狭めてまでセットバックを行う理由として、おもに次の3つが挙げられます。

  • 道路幅4m確保のため
  • 斜線の影響を受ける範囲が緩和されるため
  • 防災対策のために

それぞれについて解説します。

道路幅4m確保のため

建築物を建てる敷地は、原則として建築基準法に基づく「接道義務」を満たしていなければなりません。接道義務とは、「幅が4m(もしくは6m)以上の道路に、敷地の間口が2m以上接していなければならない」とするルールです。

しかし、建築基準法が施行された昭和25年以前から存在する古い住宅地などでは、前面道路の幅員が4m未満のケースも珍しくないのが実情です。

この場合、既存の建築物をそのまま使う分には、たとえ接道義務を満たしていなかったとしても、ただちに是正したり建物を取り壊したりする必要はありません。

ただし、建築確認申請を要する大規模な修繕・模様替えを行う場合や、既存建築物を解体して新たに建築物を建築する場合には、接道義務を満たすことが求められます。

こうしたケースにおいて、大規模修繕や新築を可能にする代表的な方法がセットバックです。道路の中心線から2m離れた位置にまで敷地を後退させることで、将来的に4mの道幅を実現するための用地を確保したものとみなされ、建て替えや新築も可能となります。

斜線の影響を受ける範囲が緩和されるため

セットバックするもうひとつの理由が、冒頭で紹介した「後退緩和」を受けられることです。

建築物には「道路斜線制限」と呼ばれる高さ制限が設けられています。これは、敷地が接する道路の反対側の境界線から一定の勾配で斜線を延ばしたうえで、その線の内側に建築物を収めなければならないというルールです。

道路斜線制限は、建築物の前面道路の採光や見通し、周辺建築物の採光や通風を確保する目的で設定されます。

ここでポイントとなるのが、敷地をセットバックすると、制限のベースとなる斜線のスタートラインが、セットバックした距離の分だけ外側に移動したものとみなされることです。

その結果、斜線による高さ制限が緩やかになり、セットバックしない場合よりも高い建築物を建てられるようになります。

防災対策のため

道路の幅が狭いと、火災や事故発生の際に消防車や救急車が道路を通ることができず、結果的に被害が拡大してしまう可能性があります。

セットバックを行うことで、緊急車両が通るための道路幅を確保することができるので、防災性を高めることが可能です。

セットバックとかかわりのある「高さ制限」

前述のとおり、セットバックすることで高さ制限の緩和を受けられる場合があります。ここでは、セットバックとかかわる可能性がある2種類の高さ制限を紹介します。

道路斜線制限

「道路斜線制限」は前述のとおり、前面道路および沿道の建築物の環境を守ることを目的とした高さ制限です。

建築物を建てる際は、敷地が接する道路の反対側の境界線から敷地に向かって、所定の傾斜で引かれる斜線の内側に建築物を収める必要があります。

適用される傾斜勾配は用途地域によって異なり、第一種・第二種低層住居専用地域をはじめとする住居系地域では1.25、それ以外の地域では1.5となっています。

道路斜線制限は、セットバックによる「後退緩和」による影響が最も大きい高さ制限です。

北側斜線制限

「北側斜線制限」は、敷地の北側隣地の日照を確保することを目的とした高さ制限です。

敷地の北側に建つ住宅の良好な住環境を維持するために設けられている制限なので、適用されるのは第一種・第二種低層住居専用地域、第一種・第二種中高層住居専用地域、田園住居地域のみとなっています。

北側斜線制限は、北側の隣地境界線から一定の高さと勾配で引かれる斜線によって建物の高さが制限されます。

また、北側が道路に面している場合には、道路の反対側の境界線から一定の高さと勾配で引かれる斜線により建物の高さが制限される決まりです。

この制限は道路斜線制限と異なり、後退緩和が適用されません。

【図解】建築物をセットバックした場合の建築物の高さ制限

1.基本

建築物をセットバックした場合の建築物の高さ制限(立体図)の説明画像
建築物をセットバックした場合の建築物の高さ制限(平面図)の説明画像

●前面道路の反対側の境界線は、建築物のセットバックの距離L1分だけ外側にあるとみなす

前述のように、建築物をセットバックすると道路斜線制限の後退緩和を受けることができます。どのように緩和を受けられるのか、図を用いて見ていきましょう。

建築物をセットバックして建築した場合、斜線のスタートラインは、セットバックの距離分だけ外側にあるものとみなされます。

セットバックすると利用できる敷地面積は狭まってしまいますが、敷地における建築可能範囲が縦方向に広がり、より高い建築物を建てられるようになるのです。

敷地内に複数の建築物がある場合

建築物をセットバックした場合の建築物の高さ制限(2.敷地に複数の建物がある場合)の説明画像

●前面道路ごとに敷地単位で算定するので、建築物AもBも後退距離はL1でとる

セットバックは前面道路に対して敷地単位で行うものです。そのため、上図のように同じ敷地内に複数の建築物があるケースでは、より道路に近い建築物Aの後退距離が敷地全体のセットバック距離とみなされます。

よって、建築物Bに関しても、建築物Aの適用距離と後退距離をベースにして、高さ制限が適用されるのです。

敷地の前に川、水路、公園、線路などがある場合

前面道路を挟んだ敷地の向かい側ががけになっていたり、川、水路、公園、線路などがあったりして、道路の中心線から2mの位置にまで敷地をセットバックしても幅員4mを確保できないケースがあります。

この場合は、道路の反対側の境界線から4mの位置までセットバックすることが必要です。これを「一方後退」といいます。

なお、敷地の向かい側が川や水路などの水面、公園や広場になっている場合、道路斜線制限の「水面緩和」が適用されます。水面緩和が適用されるケースでは、斜線のスタートラインは水面、公園、広場の反対側の境界線です。

セットバックすると、斜線のスタートラインがさらに外側に移動するため、道路斜線による高さ制限は大きく緩和されます。

既存不適格建築物とは

前面道路の幅員不足で接道義務違反になっている土地では、新築や建て替えに際して前面道路の中心線から2m(または3m)の位置までセットバックするのが原則です。

ただし、建築基準法制定以前に建てられた建築物に関しては、セットバックしていなくても違法にはなりません。

このように、新築当時は適法だったものの、その後の法改正などにより、現行の法律の規定を満たさなくなった建築物を「既存不適格建築物」といいます。

既存不適格建築物を放置するリスク

既存不適格建築物は違法建築ではないため、用途変更や増築、大規模修繕などを実施せず、そのままの状態で利用し続ける限りは特に問題ありません。とはいえ、リスクがあることは十分に認識しておきましょう。

例えば、幅員不足による接道義務違反で既存不適格となっている場合、建て替え時には必ずセットバックしなければなりません。

セットバックは拒否できないので、結果的に建築物を建てられる面積が小さくなる可能性があります。そのため、希望する条件での建て替えができない可能性がある点に注意が必要です。

そのほか、既存不適格建築物を放置する期間が長引くほど老朽化が進んで資産価値が下がる、現行の耐震基準を満たしていない場合は地震発生時に倒壊するおそれがある点にも注意しましょう。

ビューローベリタスジャパンが行う「遵法性調査」とは

既存不適格建築物によるリスクを回避するには、まず、お客様の所有する建築物が現行の法令に適合しているかどうかをチェックする必要があります。そこで有用なのが、ビューローベリタスジャパンが実施する「遵法性調査」です。

遵法性調査では、お客様へのヒアリングやご準備いただいた資料に基づく図上調査を行なうとともに、現地調査も実施。第三者かつプロの視点でのチェックにより、法的な手続きによることなく、既存不適格か否かを高い信頼度で確認できます。

さらに、ビューローベリタスジャパンの遵法性調査は、お客様のご要望に応じ、企業独自の基準などにも対応可能です。建築基準法などの法令に適合しているかどうかはもちろん、企業基準を満たしているかどうかも客観的にチェックできるので、建築物に関する経営リスクの低減に貢献します。

まとめ

前面道路の幅員不足で接道義務違反に該当する場合、セットバックにより幅員を確保する必要があります。セットバックすると建築物が建てられる面積が小さくなる一方で、後退緩和の適用により道路斜線による高さ制限が緩和されるため、結果的により高い建築物を建てやすくなるでしょう。

接道義務を満たしていない場合でも既存不適格建築物として使い続けることは可能ですが、将来の建て替え時にセットバックが必須となります。今後建て替えや大規模修繕などを検討しているなら、事前に遵法性調査を実施するのがおすすめです。

全国規模のネットワークを有するビューローベリタスジャパンなら、全国にある複数物件の調査にも対応できます。

また、確認検査機関を有しているので、専門性と信頼性の高い調査が可能です。遵法性調査も年間約200件実施しており、実績も豊富です。

建築物に関する企業リスクの低減を図りたいのであれば、ぜひビューローベリタスジャパンまでご相談ください。

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