TODA BUILDINGはLEED GOLD認証をはじめ、ZEB ReadyやCASBEEなど複数の環境認証を取得した先進的なオフィスビルとして注目を集めています。
本記事では、戸田建設様にLEED取得の背景や認証取得に向けた工夫、実際に運用して見えてきた課題や効果、そして今後の環境認証について期待することを伺いました。
<インタビュー先>
戸田建設株式会社 戦略事業本部 国内投資開発統轄部 アセットマネジメント部 部長 越部 豪 様
戸田建設株式会社 環境設備統轄部 環境設備設計部 機械設備第2設計室 上席主管 秋山 昌幸 様
コンセプトは「Art & Wellness」
- ―TODA BUILDING開発のコンセプト(用途・規模・特徴)について教えてください
[越部]TODA BUILDINGは、築約60年を迎えた旧本社ビルの建替プロジェクトとして計画されました。
創業140年という歴史を踏まえ、「次の100年に向けてどのような企業であるべきか」をテーマに開発コンセプトを検討し、その中で着目したのが、京橋という街が持つアートや文化の歴史でした。
江戸時代には絵師が居を構え、近代以降は画廊やギャラリーが発展した京橋の地域性を活かし、「街に開かれた芸術文化拠点」を目指して開発がスタートしました。
TODA BUILDINGでは、低層部にアート・文化施設を配置し、上層部をオフィス空間とする構成としています。
単にオフィスを供給するだけではなく、
- アートによる創造性の刺激
- 快適な執務環境
- 豊かな共用空間
- 屋上庭園や広場などの開放空間
を通じて、働く人のウェルビーイングを高めることを目指しました。
建設期間中から若手アーティストを対象とした公募による仮囲いへの作品展示のほか、共用部での大規模なパブリックアートの展示を行うなど、プロジェクト全体を通じてアート活動を継続してきたことも大きな特徴です。
エントランスロビーのパブリックアート
手塚愛子《生きるものを容れるもの(戸田建設史からのスタディ)》 2026
グローバル企業に選ばれるビルを目指して
- ―LEED認証を取得しようと考えた背景・きっかけは何でしたか?
[越部]TODA BUILDINGではLEEDに加え、ZEB ReadyやCASBEEなど複数の認証を取得しています。
都心の大型オフィスビルでは国内のグローバル企業や外資系企業も主要なテナントになります。そうした企業にとって分かりやすい国際的な指標を持っておくことが重要でした。
国内認証だけではなく、海外企業にも認知度の高いLEEDを取得することで、
- テナント誘致力の向上
- 建物価値の向上(省エネによる事業性向上)
- ESGへの取り組みの可視化
につながると考えました。
「GOLD」で十分な競争力があると判断
- ―LEEDにはCERTIFIED、SILVER、GOLD、PLATINUMという認証ランクがありますが、GOLDを選択した理由は?
[越部]当初は、PLATINUM取得も視野に入れて検討しましたが、
- 費用対効果
- 認証取得コスト
- 市場における差別化効果
を総合的に判断し、GOLD取得を目標に設定しました。
当時は、LEEDを取得した大規模賃貸ビルにおいては、ランクがGOLDでも十分な競争力があると考えたことが決定要因でした。
特別な組織ではなく設計チームが主体
- ―LEED取得を前提にどのような体制を構築されましたか?
- [秋山]LEED取得においては専属チームを設置するのではなく、設計メンバーが中心となり推進しました。
CASBEEやZEB Readyとの重複項目も多く、共通で対応できるものとLEED独自に対応が必要なものを整理しながら、確実に認証取得ができる項目を採用し、全体計画を行いました。
- ―ビューローベリタスを選定した理由は何でしたか?
[越部]ビューローベリタスとは確認申請業務でお付き合いがあったため、スムーズに連携できると考え、認証支援パートナーに選定しました。
[秋山]実際に打ち合わせを開始したなかで、
- 要求資料に関する相談のしやすさ
- 英語版マニュアルを日本語で分かりやすく説明していただけた
- コミッショニング支援が丁寧
これらのサポートがプロジェクトを進めるうえで大きな助けとなりました。
今回のLEED認証の中の最大の課題は「喫煙所」
- ―LEED取得で特に苦労したポイントはありましたか?
[秋山]最も苦労したのが喫煙所の設計とLEED仕様の節水設備導入です。
LEEDでは建物内へのタバコ煙の影響を極めて厳しく制限しており、日本国内での一般的な設計手法と大きく相違がありました。
排気口と閉口部の距離の確保、喫煙所の陰圧の確保、ビル館内者への禁煙啓蒙等、多くの規定を満足させるのにかなり苦労しました。
水利用に関する項目では、LEED基準を満たすため、排水処理による雑用水再利用、LEED仕様器具の採用を行いました。
ただし、すべてを最高仕様にするのではなく、
- どの設備でポイントを効率的に取得するか
- 費用対効果は妥当か
を一つずつ検討しながら最適化を図りました。
その結果、衛生器具では大便器と小便器を中心にLEED仕様を採用し、効率的な得点取得を実現しました。
排水処理設備室
各階事務所用潜顕分離空調機
節水設備と利用者行動のギャップ
- ―日本国内のプロジェクトとして、LEED要件との調整に苦労した点はありましたか。
[越部]運用開始後に見えてきた課題もあります。
LEED仕様の節水型便器については、「流れ切らないと感じて2回流しているケースもある」という利用者の行動が見られました。特に女性比率の高いフロアでは想定以上の水使用量となるケースもあり、日本独特の衛生意識との違いが明らかになりました。
LEEDがグローバル基準である一方、地域ごとの文化や利用習慣との調整も今後の課題ではないでしょうか。
ロケーションと環境性能の相乗効果
- ―LEED取得の取り組みによる効果はありましたか?
-
[越部]TODA BUILDINGは京橋駅周辺という優れた立地条件を持っています。
そのため、交通利便性、都市機能へのアクセス、歩行環境などで高い評価を獲得しました。
また、
- ZEB Ready水準の省エネ性能
- 高効率設備
- レジリエンス対策
- BCP対応
なども結果的にLEEDの高得点につながりました。
[秋山]LEED認証 ZEB Readyの取り組みはビルの省エネルギー性能向上にも大きく貢献しています。エネルギー使用状況を見える化することで効率的な省エネ運用を実現しています。
こうした客観的な評価を通じて、このビルが持つ立地や環境性能の優位性を改めて、市場に効果的に発信することができました。
また、建物の特徴的な設計として、近年激甚化する水害リスクを考慮し、主要な設備を地下ではなく7階に配置しています。
こうしたBCP(Business Continuity Plan)対策も建物全体の価値向上につながっています。
CGS:Cogeneration System(7階)
廃熱回収吸収式冷温水機(7階)
LEEDはテナント誘致の「後ろ盾」
- ―今後LEED取得を考えている企業へアドバイスをお願いします。
[越部]LEEDだけでテナントが決まるわけではありません。ただ、最終的に複数のビルを比較する際の後ろ盾になると思います。賃料や立地、設備など多くの要素が比較されるなかで、
といった認証は企業が安心して選択するための判断材料になります。
特に外資系企業やグローバル企業では環境配慮への意識が高く、LEED取得の価値は今後さらに高まると考えられます。
LEED取得には経済合理性との両立が鍵
- ―今後の環境認証への期待はありますか?
[越部]環境性能の向上は重要である一方、建設費高騰が続く現在では経済合理性とのバランスも欠かせません。環境性能だけで投資判断が行われるわけではなく、結局は事業性とのバランスになります。
その中でもLEEDは、
- グローバル企業の誘致
- ESGへの対応
- 建物ブランド向上
に寄与する重要な要素として位置付けられています。
喫煙所や運用要件など、日本独自の事情とのギャップを感じる場面もあり、日本市場に合った形で、より分かりやすく取り組みやすくなる将来を期待しております。
まとめ
TODA BUILDINGは、「Art & Wellness」をテーマに、街に開かれた文化拠点と高性能オフィスを融合させた先進的なプロジェクトです。
LEED GOLD取得は単なる認証取得ではなく、将来のテナントニーズやESGへの対応を見据えた長期的な価値創出の取り組みでもありました。
最新のLEED v5ではウェルビーイングやレジリエンスの要素がさらに強化されており、今後は環境性能だけでなく、人や地域への価値もより重視される認証へと進化していくことが期待されます。
今後、環境認証が差別化要素から標準要件へと変わっていくなかで、TODA BUILDINGの事例は、多くの企業やプロジェクトにとって参考となる事例といえるでしょう。