WELL認証で取り組みにくい項目とは?WELL認証の基本知識を解説

近年、オフィスビルの建築やオフィス空間の設計において、「WELL認証」の重要度が高まっています。WELL認証は、建物の環境性能やエネルギー性能だけでなく、利用者の健康や快適性を評価に含んでいることが大きな特徴です。

WELL認証の評価は、大きく10のコンセプトから成り立っており、カテゴリごとに必須項目と加点項目があります。項目によって取り組みやすさが異なるため、なかには加点を取りづらい項目もあるのが実情です。

以下では、WELL認証の概要を解説するとともに、取り組みにくい項目とその理由について詳しく解説します。

WELL認証とは?

WELL認証(WELL Building Standard)とは、機能性や効率性といった建築的観点だけでなく、そこで過ごす人間の健康や快適性も含めて評価する、世界初の建物の評価システムです。

2014年にアメリカで開発されて以来、健康経営に対する関心の高まりから世界的に認証件数が増加しています。認証件数の多い国は、おもにアメリカや中国、フランス、スペインなどです。日本でも、2024年2月までに150件が登録され、うち49件が認証を取得しました。

WELL認証を取得する動きが活発化しているのは、取得に大きなメリットがあるからです。認証を取得するには、従業員の健康や働き方に配慮した環境が求められるため、取得後は従業員の健康増進や生産性の向上が期待できます。また、従業員のウェルネスに配慮している企業であることが認められることで、企業イメージの向上にもつながるでしょう

ほかにも、賃料アップやテナント募集が有利になるなど、自社物件の不動産価値向上にも寄与します。

WELL認証は10項目から成り立つ

WELL認証(WELL v2)の評価基準は、空気・水・栄養・光・運動・温熱快適性・音・材料・こころ・コミュニティという10のコンセプトで構成されています。これらは、建物内で過ごす人間の健康・快適性を大きく左右する要素として一定の基準を満たしている必要があります。

なお、評価には10のコンセプトにプラスして、「イノベーション」も加点項目として設定されています。

WELL認証のポイントシステムについて

WELL認証(WELL v2)は、ポイントシステムを採用しており、取得したポイントの合計によって認証レベルが決まる仕組みです。具体的には、上記で紹介した10のコンセプトに対して、「必須項目(Precondition)」と「加点項目(Optimization)」が設定されています。
WELL認証を取得するには、全24項目の必須項目を達成するとともに、加点項目を一定以上達成しなければなりません。

なお、認証レベルはポイントの合計によって4つに分けられます。認証レベルを上げるには、加点項目のポイントを多く取得することが必要です。
ただし、国のルールや気候・環境などによって、達成しやすい項目と達成しにくい項目があります。

WELL認証で取り組みにくい項目

WELL認証には必須項目と加点項目の2つの評価項目があり、項目によって低コストで導入できるものから導入のハードルが高いものがあります。ここでは、コンセプトごとに取り組みにくい項目を紹介します。

食物

必須項目

  • 果物と野菜
  • 栄養の透明性

加点項目

  • 精糖成分
  • 食品広告
  • 人工的な原材料
  • 一人前の分量
  • 栄養教育
  • 心豊かな食卓
  • 特別食
  • 食品の準備
  • 責任ある食品調達
  • 食品生産
  • 地元の食品環境
  • レッドミートと加工肉

取り組みにくい項目は、「精糖成分」と「責任ある食品調達」です。従業員の健康増進に配慮した食堂の設置が必要となるため、ハードルの高い項目です。
食物のカテゴリは、糖質、揚げ物の制限、食物アレルギーの開示、栄養士による食育の実施など食に関する項目が多岐にわたっているのが特徴です。食事を提供しない場合は、加点に繋がらないケースが多いです。

必須項目

  • 光暴露
  • ビジュアル照明デザイン

加点項目

  • サーカディアン照明デザイン
  • 人工照明のグレア制御
  • 昼光の設計戦略
  • 昼光のシミュレーション
  • 視覚的バランス
  • 人工照明の質
  • 入居者による照明制御
  • 演色性の向上
  • ちらつきの管理

取り組みにくい項目は、「演色性の向上」と「ちらつきの管理」です。
演色性(CRI)は海外基準に基づいているため、日本では達成しにくい状況です。また、「ちらつきの管理」は部品のエビデンスが必要で、該当する製品を見つけるまでの手間がかかります。ほかの加点項目も比較的ハードルが高く、光のカテゴリそのものが加点を達成しにくくなっています。

運動

必須項目

  • アクティブな建物とコミュニティ
  • 人間工学に配慮したワークステーションのデザイン

加点項目

  • 移動空間のネットワーク
  • アクティブ通勤のための施設
  • 敷地の計画と選択
  • 運動の機会
  • アクティブな家具
  • 運動スペースと器具
  • 運動の促進
  • 自己モニタリング
  • 人間工学のプログラム

取り組みにくい項目は、「移動空間のネットワーク」や「運動スペースと器具」です。
オフィスの近隣に公園がある、運動できる場所への交通アクセスがある、歩行者優先道路があるなど、立地条件に左右される側面があります。既存の環境に手を加えることは難しいため、現時点で条件がそろっていない限りハードルは高いでしょう。

温熱快適性

必須項目

  • 温熱性能

加点項目

  • 温熱快適性の検証
  • 温度ゾーニング
  • 個別の温度制御
  • 輻射による温熱快適性
  • 温熱快適性モニタリング
  • 湿度制御
  • さらなる開閉可能な窓
  • 屋外の温熱快適性

取り組みにくい項目は、「湿度制御」です。
相対湿度のモニタリングが必要となるため、湿度の高い日本では厳しい項目です。また、β項目(四半期に1回、項目が追加・更新される)が2つあることも、対応のハードルを上げています。全般的に加点の見込める項目が少ないのが現状です。

必須項目

  • 音響マッピング

加点項目

  • 最大騒音レベル
  • 遮音壁
  • 残響時間
  • 吸音性能のある仕上げ
  • 最低限の暗騒音
  • 衝撃音の管理
  • 音響機器の強化

取り組みにくい項目は、「遮音壁(内壁、ドア)」です。
日本の建築基準法は長屋、共同住宅の界壁遮音性能に対する基準しかなく、内壁や、ドアの遮音、残響時間にかんするノイズは考慮されていません。壁をあとから遮音壁に変更するのはコストや手間がかかるため、取り組みにくい項目といえます。

材料

必須項目

  • 材料の制限
  • 室内の有害材料の管理
  • クロム鋼と素系木材防腐剤と鉛の管理

加点項目

  • 敷地の浄化
  • さらなる材料の制限
  • 揮発性化合物の制限
  • 材料の透明性
  • 材料の最適化
  • 廃棄物の管理
  • 有害生物管理と殺虫剤使用
  • 清掃用品と清掃手順
  • 接触の削減

取り組みにくい項目は、「揮発性化合物の制限」です。
揮発性化合物(VOC、揮発性有機化合物)とは、常温・常圧の環境下で気体や蒸気になりやすい化学物質のことです。代表的な物質として、ホルムアルデヒドやベンゼンなどが挙げられます。
VOC規制に関しては、日本よりもWELL認証のほうが基準が高いため、認証取得には高い基準をクリアする必要があります。

WELL認証は4つのランクに分かれている

WELL認証(WELL v2)は、Bronze・Silver・Gold・Platinumの4ランクに分けられます。

Bronzeは40ポイント、Silverは50ポイント、Goldは60ポイント、Platinumは80ポイントの取得が求められます。高いランクを狙うには多大なコストと労力をかけ、多くの項目で加点を取る必要があります。

あくまでも、できる範囲内で加点を得て、目標を達成するのが得策です。

まとめ

WELL認証を取得することで、健康経営を推進する企業や建物であることを外部へ効果的にアピールできます。ほかにも、認証取得に向けた取り組みにより、従業員の健康増進や生産性向上、不動産価値向上などが期待できるでしょう。

ビューローベリタスジャパンでは、WELL評価の専門資格「WELL AP」を有する技術者が、WELL認証取得のサポートを積極的に行なっています。世界基準の認証取得を目指すなら、世界各国で多くの実績を持つビューローベリタスジャパンへ、ぜひご相談ください。

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